定義
- 鉄欠乏症(Iron Deficiency):フェリチン<30 ng/mLまたはTSAT<20%
*炎症性疾患がない人で
- 鉄欠乏性貧血(Iron Deficiency Anemia):鉄欠乏症+貧血(女性:Hb12 g/dL未満, 男性:Hb13 g/dL未満)
診断に骨髄検査や鉄染色検査が必要となることはまれ
<注意点>
- フェリチンは炎症で増加するため、炎症性疾患では鉄欠乏症の診断感度は低下 ⇒フェリチン50ng/mL以上でも鉄欠乏を考慮する場合はTSATを測定すべき
- 絶対的鉄欠乏症に炎症性疾患を併発する患者でフェリチンが100 ng/mLを超えることはまれ
- 鉄を含む食品、ビタミン、サプリメントを摂取してから5-9時間以内は、血清鉄が増加するためTSATの測定をするべきではない
- 鉄剤投与後に網赤血球増加(網状赤血球数>100,000/μL)を認めた場合、鉄不足で赤血球産生が制限されていたことを示唆 ⇒鉄欠乏症の診断に有用!
- 鉄剤投与後1週間以内に網状赤血球増加を認めない場合、鉄欠乏症以外の疾患や、併存疾患を疑う
鉄動態

鉄は、食事から吸収
- ヘム鉄:赤身の肉、鶏肉、魚介類に由来する
- 非ヘム鉄:豆類、野菜(濃い緑の葉野菜)、サプリメント
⇩ 腸上皮細胞で吸収
フェロポーチン(鉄輸出分子)を介して血液中のトランスフェリンに輸送
⇩
トランスフェリンが鉄を輸送。肝臓と脾臓でフェリチン、骨髄でヘモジデリンとして貯蔵。
鉄は主に細網内皮系に貯蔵され、老化した赤血球からマクロファージによって回収される
⇩
約1-2mg/日の鉄を汗と便中に喪失
<女性と鉄の必要量>
- 女性の推奨鉄摂取量:18 mg/日⇒約10% (1.8 mg/日) が吸収される
- 月経中は、鉄の必要量は約 2mg/日増加
- 妊娠は、鉄の必要量は1000~1100mg増加
*生殖年齢の女性(妊婦を除く)では、約38%で鉄欠乏症(貧血なし) , 約13%で鉄欠乏性貧血を認める
ヘプシジンについて
- 肝臓で合成されるホルモン
- 鉄吸収と貯蔵を調節する(フェロポーチンを阻害し、フェロポーチン分解を促進)
・貯蔵鉄が少ない時:ヘプシジン減少⇒鉄吸収・貯蔵鉄の放出が増加
・直近の鉄摂取、十分量の鉄貯蔵、炎症:ヘプシジン増加⇒鉄吸収・貯蔵鉄の放出は抑制 *ヘプシジン増加すると、貯蔵鉄はヘモグロビン合成に利用できなくなる⇒ヘプシジンの長期高値は、機能性鉄欠乏とそれに伴う貧血になる
症状:貧血の有無に関わらず出現
- 異食症(最多:最大50%に認める):氷を無性に食べたくなる
- 倦怠感
- 運動耐容能の低下:動悸、息切れ
- むずむず脚症候群(RLS)
- うつ病
- 注意力や集中力の低下
身体所見
- 舌乳頭の消失、口角炎
- 匙状爪(spoon nail)
- びまん性非瘢痕性頭皮脱毛症
- 貧血を伴う場合:顔面蒼白、眼瞼結膜蒼白、頻脈、心収縮期雑音
原因:出血(月経, 消化管出血), 妊娠が一般的
1)出血
- 月経
- 妊娠と出産:妊娠後期には最大84%で鉄欠乏症となる
- 消化器がん
- 胃炎
- 潰瘍(キャメロン潰瘍(食道裂孔ヘルニアに伴う線状潰瘍)を含む)
- 炎症性腸疾患
- アスピリン、NSAIDsの慢性使用
- 定期的な献血
- 激しい運動
- 遺伝性出血性毛細血管拡張症またはその他の原因による鼻または消化管の動静脈奇形
- 鉤虫またはその他の寄生虫
- メッケル憩室
- 肉眼的血尿
2)吸収不良
- Helicobacter pylori 感染
- 自己免疫性または萎縮性胃炎
- 炎症性腸疾患
- 肥満、肥満外科手術:肥満自体は脂肪組織がヘプシジン産生⇒炎症誘発⇒ヘプシジン産生刺激⇒鉄吸収低下。肥満外科手術で食物が小腸の吸収面を通らなくなると吸収不良になる。
- PPIの長期使用:鉄吸収にはpH低値である必要があるが、PPI内服でpH上昇するため
- セリアック病(3.2%):腸の炎症で潜血+腸絨毛萎縮による吸収低下+炎症誘発性ヘプシジン発現亢進
- まれな遺伝性疾患:無トランスフェリン血症、鉄難治性鉄欠乏性貧血など
3)慢性炎症
- 癌
- リウマチ性疾患:関節リウマチ、全身性エリテマトーデス
- 炎症性腸疾患
- 慢性腎臓病
- 心不全
- 内分泌疾患:甲状腺機能低下症
検査:原因精査
- 過多月経あり⇒婦人科疾患の評価
- 過多月経なし⇒消化管の評価
<消化管の評価:症状と検査>
- 心窩部痛、早期腹満感、食思不振、嘔気、嘔吐、下痢、自覚症状なし⇒セリアック病抗体、抗細胞壁抗体、ピロリ検査
- 吐血、黒色便⇒上部消化管内視鏡検査
- 便性状の変化、体重減少などの非特異的症状、無症状の全男性+35-40歳以上の女性 ⇒下部消化管内視鏡検査
治療:経口での鉄補充が基本
1)出血源の止血:出血源がある場合
2)鉄補充:経口内服が基本(原因精査と並行して開始)
- 鉄吸収を低下させる食物:食物繊維、カルシウム、コーヒー、紅茶⇒内服前後の1時間以内の摂取は避ける
- 鉄吸収を増加させる食物:ビタミンC、肉蛋白質⇒一緒に摂取するとGood
- 鉄分を多く含む食品:動物性肉、強化シリアル、豆類(レンズ豆、ひよこ豆、豆類[ライマ豆、大豆、インゲン豆、白インゲン豆]など)
- 鉄剤の隔日内服:毎日服用と効果は同等、副作用は少なくなる
<鉄静注投与が第一選択となる人>
- 月経量が多い人
- 慢性的な消化管出血
- 鉄吸収障害
- 肥満外科手術後
*安全性に関するデータ不足により、妊娠初期(第1三半期)における静脈内鉄剤投与は推奨されない
治療効果判定
- 鉄欠乏症:治療開始から4週間後に再評価
<鉄欠乏性貧血での鉄剤不応性の評価>
Am J Med. 2017 Aug;130(8):991.e1-991.e8.
- 方法:IDA患者に対して、鉄約200mg/日(Ferrous sulfate 325 mg(鉄65 mg含有)1日3錠⇒195mg/日)で治療し効果を評価
- 投与開始から28日後にHb上昇率が最大となった
- 投与開始から14日目の時点でΔHb<1.0 g/dLの場合、有意にHb増加率が低い ⇒14日目のΔHb≧1.0 g/dLは、42 or 56日目のΔHb≧2.0 g/dLの予測因子といえる(感度 90.1%、特異度 79.3%、陽性予測値 92.9%、陰性予測値 72.7%)

⇩この結果より
経口鉄剤投与開始後14日目にΔHb<1.0 g/dLの鉄欠乏性貧血患者は、静脈内鉄剤投与に切り替えるべき
参考文献
・Iron Deficiency in Adults: A Review. JAMA. 2025 May 27;333(20):1813-1823. PMID: 40159291.
・Iron Supplementation, Response in Iron-Deficiency Anemia: Analysis of Five Trials. Am J Med. 2017 Aug;130(8):991.e1-991.e8. PMID: 28454902.