目次
疫学
- 平均発症年齢:81歳(70歳未満はまれ、70歳以上で発症率が徐々に上昇)
- 10年間の股関節骨折率:50歳では男性5.2%、女性2.9%だが、80歳では男性21.2%、女性23.8%
- 性別:女性が多い(理由:①閉経後の急速な骨量減少、②女性の方が転倒率が高い)
病態生理
- 加齢による皮質骨の菲薄化+海綿骨(骨梁)の減少によって、骨粗鬆症や股関節骨折を生じやすくなる
- 大腿骨近位部骨折は、股関節に加わる外力が、股関節の強度を超えた時に発生する

骨折の種類


臨床症状・身体所見
- 大腿骨近位部骨折の95%以上は転倒後に発生する
- 症状:股関節痛(臀部、鼠径の疼痛を訴えることもあり注意)
- 身体所見:患側下肢の下肢短縮+外旋位
- 恥骨膝蓋骨叩打試験:恥骨部に聴診器を当て、膝蓋骨をトントンと指で叩いて音響の伝導差を確認
画像検査
- X線検査:感度は少なくとも90% ⇒X線で骨折を認めないが臨床的に強く疑う場合は、CT検査やMRI検査を行う
Garden分類:X線検査による分類
骨折の転位は血流障害と相関するため、Garden分類は大腿骨頭壊死のリスクと関連する。しかし、骨折線が大腿骨頸部の基部であれば、血流支配の外側に骨折が位置する可能性があり、転位の有無に関わらず大腿骨頭壊死のリスクは低下する。

Ⅳ型:大腿骨頭が関節包・血管から完全に分離している状態を示し、脱臼の程度が大きいほど大腿骨頸部の血流障害の可能性が高い
Eur J Med Res. 2021 Aug 4;26(1):86. より
治療:手術
- 大腿骨近位部骨折後48時間以内の手術は死亡率の20%低下(RR 0.80[95% CI, 0.66-0.97])と関連
- 人工関節置換術(arthroplasty)、または観血的整復固定術(ORIF:open reduction and internal fixation 埋め込み器具を用いた関節安定化)
- 大腿骨頸部骨折に対しては、近位大腿骨および寛骨臼の両方を置換する人工股関節全置換術(total hip arthroplasty)または双極性人工骨頭挿入術(bipolar hip arthroplasty)、あるいは近位大腿骨のみを置換する単極性人工骨頭挿入術(unipolar hip arthroplasty)
- 大腿骨転子部が関与する骨折は、より一般的にORIF
周術期管理
疼痛コントロール
- 高齢者にはNSAIDsは推奨されない
- 非NSAIDsのアセトアミノフェンなどを6時間毎に投与することが推奨される ⇒疼痛コントロールが得られない場合、オピオイド(経口または静注)や大腿神経ブロックを行う。
血栓塞栓症予防
- 無症候性の深部静脈血栓症は最大50%に、致死的な肺血栓塞栓症は大腿骨近位部骨折後3か月以内に患者の10%に発生 ⇒予防が推奨される
- 投与方法:低分子量ヘパリン(LMWH)エノキサパリン24時間ごとに30-40 mg皮下投与
*DOACも低分子量ヘパリンと同等の有効性と安全性をもつ
- 期間:骨折での入院時から開始し、術前4時間までに投与中止。術後は12時間以上経過後に再開し術後最長35日間継続。
抗血小板薬や抗凝固薬の内服への対応

Eur J Med Res. 2021 Aug 4;26(1):86.を参考に作成
抗血小板薬
- 内服していても手術を遅らせる必要はない
- DAPTの場合は、脊髄麻酔は禁忌
- 特にクロピドグレル+バイアスピリンは周術期の出血量増加につながる可能性があるが、遅滞なく安全に股関節骨折手術を受けることができることも示されている
ワルファリン
- PT-INR<1.5が望ましい(内服中止 or ビタミンK投与 or FFP投与で対応する)
- 機械弁、直近の脳卒中の既往歴のある心房細動、深部静脈血栓症、肺塞栓症の患者には、治療用量の皮下低分子量ヘパリンまたは静脈内未分画ヘパリンに基づくブリッジング戦略を検討
DOAC
- Xa阻害薬(アピキサバン、エドキサバン、リバーロキサバン)は、血漿中薬物濃度<50 pg/mlであれば手術は安全と考えられている。血漿中濃度を測定できない場合は、最終内服から手術まで24時間あける。
- Ⅱa阻害薬(ダビガトラン)では、血漿濃度を測定し、イダルシズマブによる拮抗も検討
おまけ *トラネキサム酸の全身投与は、出血量と輸血率を減少させ、抗凝固療法を受けている患者の出血コントロールに使用可能
せん妄予防
- 合併症や死亡率の上昇と関連するため予防が非常に重要
- せん妄を認めたら、治療可能な原因がないか精査し介入する(電解質異常、代謝異常、感染症、臓器不全、疼痛、抗コリン薬の使用など)
術後管理
- リハビリテーション:ほとんどの患者で、術後1〜2日以内に手術側股関節への荷重が可能
- 内服薬の見直し:転倒リスクとなる薬剤の減量や中止の検討
- 骨粗鬆症の治療
大腿骨近位部骨折のリスク因子への介入

<リスクとなる薬剤>
- 糖質コルチコイド(ヒドロコルチゾン、プレドニゾン): 骨密度低下、筋力低下
- アロマターゼ阻害薬(アナストロゾール): 骨密度低下
- アンドロゲン遮断療法(リュープロリド): 骨密度低下、サルコペニア
- チアゾリジン薬(ピオグリタゾン、ロシグリタゾン): 骨密度低下
- 血管拡張薬(ニトログリセリン、ヒドララジン): 起立性低血圧や失神による転倒リスク増加
- ベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパム、クロナゼパム): めまいや鎮静による転倒リスク増加
- 抗うつ薬(SSRI、TCA): めまい、起立性低血圧、鎮静による転倒リスク増加。SSRIは骨代謝回転を亢進させ骨密度を低下させる。
- 抗精神病薬(ハロペリドール、クエチアピン): めまいや鎮静による転倒リスク増加
予後
- 元の日常生活レベルに回復した割合 42-71%
- 介護施設入所となる割合 20.1%
- 1年以内に他の骨折を生じる割合 25.5%
- 1年以内の死亡率:男性 26.9%、女性 18.5%
- 骨折後の主な死因:肺炎、敗血症、心筋梗塞、肺血栓塞栓症、悪性腫瘍
参考文献
- Johannesdottir F, Roberts JE, Kiel DP, Tsai JN. Hip Fractures: A Review. JAMA. 2026 Aug 11;336(6):496-507. doi: 10.1001/jama.2026.11895. PMID: 42461643.
- Fischer H, Maleitzke T, Eder C, Ahmad S, Stöckle U, Braun KF. Management of proximal femur fractures in the elderly: current concepts and treatment options. Eur J Med Res. 2021 Aug 4;26(1):86. doi: 10.1186/s40001-021-00556-0. PMID: 34348796; PMCID: PMC8335457.